平成13年(ネ)第3719号 損害賠償請求控訴事件
控訴人 佐木理人
被控訴人 大阪市
証拠説明書
2002年7月29日
大阪高等裁判所
第6民事部D係 御中
控訴人代理人 弁護士 |
竹下義樹 |
同 | 岸本達司 |
同 | 坂本 団 |
同 | 高木吉朗 |
同 | 山之内 桂 |
同 | 伊藤明子 |
同 | 和田義之 |
同 | 石側亮太 |
控訴人は、甲第70号証・ビデオ録画について、以下のとおり証拠の説明をする。
記
第1 撮影日時 平成14年3月25日 午後8時30分ころ〜午後9時30分ころ
第2 撮影場所 大阪市営地下鉄御堂筋線天王寺駅なかもず方面行きホーム(以下「本件ホーム」という)
第3 撮 影
者 控訴人訴訟代理人弁護士 石側亮太
第4 撮影対象 本件ホームおよび本件ホーム上の柱、点字ブロック、A階段裏側の壁、ホーム終端壁等の形状並びに控訴人の歩行状況
第5 立証趣旨
1 本件事故当時、控訴人が頭の中で認識したルートおよび控訴人が実際に歩行したルート上の歩行状況を再現し、控訴人の歩行には何ら問題がなかったことを立証する。
2 本件ホームにおいては列車(1,2,3番線)の発着音、構内アナウンス、発車ベル、乗客の話し声や歩行音等、様々な音があふれており、音による環境把握が非常に難しいことを立証する。
第6
以下、本証につき、若干の説明をする。
まず、本証は、本件事故当時、控訴人が頭の中で認識したルート(B階段に向かうつもりだったが、A階段裏側の壁かホーム上の柱かと勘違いした、以下「ルート@」という)および控訴人が実際に歩行したルート(以下「ルートA」という)上の歩行を再現し、それぞれ後方および前方から撮影したものである。
したがって、本証は次の4つの場面ア〜エで構成されている。
(1) 場面ア:ルート@(後方から撮影)
(2) 場面イ:ルート@(前方から撮影)
(3) 場面ウ:ルートA(後方から撮影)
(4) 場面エ:ルートA(前方から撮影)
なお、撮影にあたっては、人気が少ない状態を選んだが、通常本件ホーム上、特に縁端警告ブロック付近には多数の乗客が立っており、撮影時のように比較的スムーズに歩行できることは稀である。
1 場面ア
A 歩き出すところ
白杖がホームの路面(格子状に溝がある)に引っかからないようにするため、スライド方式ではなく、タッチテクニック方式により歩行している。また、タッチテクニック方式による音によって乗客が視覚障害者に気づく効果もある。
対面式ホームでは、ホーム端の壁に沿って歩行するのが最も安全であり、歩行指導においてもそれが原則とされてはいるが、実際には、ホーム上に柱やごみ箱、公衆電話、ベンチ、乗客など数多くの障害物があるため、常にホーム端の壁に沿って歩くのは不可能である。ビデオ撮影時にも、ベンチに座っている人に白杖が当たった。
B 白杖が右前方の柱に当たるところ
本件ホーム上の縁端警告ブロックと柱との間が非常に狭いことがよくわかる。したがって、常に縁端警告ブロックに沿って歩くのは、柱にぶつかって方向がわからなくなったり、ホームから転落するおそれがあり、危険である。
C 白杖がB階段裏側の壁に当たって、一瞬立ち止まるところ
B階段に向かうつもりだったが、予想に反して白杖が前方の何かに当たったため、左手で物体に触れてこれを確かめ、A階段裏側の壁と判断している。
D 体の向きを90度右方向に変えて歩き出すところ
左手で壁面に触れながら進行している。自分の位置と歩行ルートに関して最も有力な手がかりである壁面を左手で触れながら進行することで、A階段裏側の壁を安全に回り込もうとしている。なお、左手は体より前方を確認している。
また、控訴人は、白杖で少し前方の壁面と路面両方の様子や位置関係を確かめながら慎重に歩行している。
E 姿が消えるところ
左手で壁の角を触知したため、A階段裏側の壁を回り込み、画面から消えた。回り込み行動は全く支障なく行われ、A階段裏側の改札階に上がろうとした。
2 場面イ
A 2つ目のベンチを通り過ぎるところ
本件ホーム上の縁端警告ブロックと柱との間は非常に狭い。したがって、常に縁端警告ブロックに沿って歩くのは、柱にぶつかって方向がわからなくなったり、ホームから転落するおそれがあり、危険である。
ビデオ撮影時にも、乗客が縁端警告ブロック上に立ち止まっていた。
3 場面ウ
A 縁端警告ブロックをスライド方式で確認しながら、歩き出すところ
縁端警告ブロックの位置を白杖で確認し、自分がホーム内側(ホーム縁端とは逆側の位置)に立っていることや、歩く方向などを決定しながら歩いている。
B 縁端警告ブロックから離れてホーム中央をタッチテクニック方式で歩き出すところ
行き交う乗客の気配がなくなったと判断し、より効率的にB階段に向かって歩くつもりで進行する。白杖がホームの路面(格子状に溝がある)に引っかからないようにするため、スライド方式ではなく、タッチテクニック方式により歩行している。
C ホーム終端の警告ブロックの屈曲部分を横切るところ
白杖が路面をたたくタイミングと歩幅などの関係で警告ブロックを踏み超えてしまうが、控訴人は全く気づかず直進する。歩行速度にも変化はない。
D ホーム終端壁に白杖が当たって、一瞬立ち止まるところ
B階段に向かうつもりだったが、予想に反して、階段や通路ではない圧迫を感じたため、左手で物体に触れてこれを確かめ、A階段裏側の壁と判断している。
ホーム終端壁も、ホーム長軸方向に対して垂直に位置する壁面であって、階段裏側や柱と区別がつかない。なお、ホーム終端壁は、A階段裏側の壁と全く同様(壁の中央部分に金属製の扉があり、壁面の材質、形状も同じ)である。
E 体の向きを90度右方向に変えて歩き出すところ
左手で壁面に触れながら進行している。自分の位置と歩行ルートに関して最も有力な手がかりである壁面を左手で触れながら進行することで、A階段裏側の壁を安全に回り込むつもりである。左手は体より前方を確認している。しかし、白杖の先端は、体から70〜80センチメートル前方に出ており、ホーム終端壁からホーム縁端部分までの距離は40センチメートルであるため、左手が壁の角を触知する前に、白杖の先端が列車に接触し、ホームから転落する。控訴人はまさに探索行動中であったのである。
控訴人は、白杖で少し前方の壁面と路面両方の様子や位置関係を確かめながら慎重に歩行していたため、ホーム縁端警告ブロックが敷設されていれば、白杖または足裏でこれを認識して転落を回避できた可能性が高い(ビデオでは本件事故後延長された縁端警告ブロックが録画されている)。また、立入禁止柵もしくは転落防止柵が設置されていれば、ホーム終端であることをまず白杖で触知することが可能であり、転落は回避できた。
4 場面エ
A ホーム終端の警告ブロックの屈曲部分を横切るところ
ホーム終端の警告ブロックの屈曲部分を横切る際、白杖が少し警告ブロックにひっかかり、足でも警告ブロックを踏んでいる。
場面ア〜エの4回の撮影中、同屈曲部分を踏んだのはこの1回のみであり、他の3回は全く気づかなかった。
以 上