訴    状

   当事者の表示    別紙当事者目録のとおり

 訴訟物の価額  金四、八三八万四、二五〇円
 貼用印紙額   金   二一万一、六○○円

損害賠償請求事件
請 求 の 趣 旨

一 被告は、原告に対し、金四、八三八万四、二五〇円及びこれに対する平成七年一〇月
 二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決並びに仮執行の宣言を求める。

請 求 の 原 因
第一 本件訴訟の概要及び意義
 視覚障害者である原告は、平成七年一〇月二一日午後一〇時頃、地下鉄御堂筋線天王寺駅(以下、本件駅という)を乗客として利用していたところ、同駅には視覚障害者らの乗降や利用の安全を確保するための危険告知及び転落防止措置が敷設されていたが、それが不十分ないし不完全であったため、発車した地下鉄車両に接触して、線路脇に落下し、重傷を負わされるに至った(以下、本件事故という)。
 本件訴訟は、原告が右事故により被った被害の早期救済を求めるとともに、損害賠償請求を通じて、視覚障害者にとって駅ホーム等の交通機関施設の危険な現状を訴え、地下鉄を始めとする公共交通機関の事故防止措置義務及び障害者らに対する安全配慮義務を十分に果たしていない実態を明らかにするものである。
 そして、現在も後を断たない視覚障害者の悲惨な駅ホームからの転落事故の原因が設備の不完全性にあることを明らかにし、視覚障害者の立場に立った安全な交通機関とは何か、どのような人的・物的施設が必要なのかについて、広く社会、地方公共団体及び交通事業者にその認識と理解を求めるものである。

第二 当事者
 一 原告
 原告は、昭和四八年一〇月三〇日生まれの男性であるが、生まれたときから両眼に先天性緑内障の視覚障害を有し、弱視であった。そして、原告は六才の時に右眼を失明し、左眼も中学に入学した頃から一層視力が低下してゆき、二〇歳の頃には全盲となった。 原告は、本件事故当時、神戸市外国語大学二部英米学科の三年生(当時二一歳)であったが、本件事故により重傷を負わされた結果、合わせて一年近くもの入院生活と約一年四ヶ月もの通院生活を余儀なくされた。このため、原告は本来であれば平成九年三月には右大学を卒業し、進学ないしは就職できたところ、平成一一年三月にようやく同大学を卒業し、同年四月、同大学大学院に進学することができたものである。

 二 被告
 被告は、大阪市営地下鉄(以下、単に「地下鉄」という)の設置・運営をしている地方公共団体である。
 被告は、本件駅を設置・管理するとともに、また、本件事故当日、被告を運送人、原告を旅客とする旅客運送契約を締結した。

第三 本件事故の状況
 一 本件事故の概要
 本件事故は、平成七年一〇月二一日午後一〇時頃、本件駅のなかもず方面行きプラットホームにおいて発生した。
 原告は、発車した電車に接触して跳ね飛ばされ、ホーム脇の線路付近に転落して左大腿骨骨折、左上腕骨骨折、頭部挫創(三三針)等の重傷を負わされた。
 二 本件事故の経過は、次のとおりである。
1 平成五年四月、原告は、神戸市外国語大学二部英米学科に入学し、入学当初は、右大学の付近に下宿し、そこから通学していた。
2 平成七年七月、原告の家族が、大阪市阿倍野区天王寺町の現住所に転居したことから、原告にとって本件駅が実家の最寄の駅となった。
 原告は、右実家の転居に伴い、同年の夏期休暇を利用して、大阪市身体障害者団体協議会の訪問指導により、実家から大学までの通学経路及び本件駅のホームから右実家までの歩行訓練を受けた。
 本件事故は、原告が地下鉄天王寺駅を利用し始めて三ヶ月余りにしかならない時期に起こったものであり、原告は本件事故に遭遇するまでに、本件駅を四回程、付添人なしで利用したことがあるにすぎなかった。
3 本件事故当日、原告は、大学のゼミを受講した後、翌日の大阪市内で実施される英語検定試験を受験するため、実家に帰ることとなった。
 原告は、午後九時に右大学のゼミが終了した後、大阪方面に帰宅する同じゼミの友人とともに、二人でJR線に乗車し、JR大阪駅に到着した。原告は、右友人にJR大阪駅から地下鉄御堂筋線梅田駅の天王寺方面行きのホームまで付き添ってもらったが、ここで右友人と別れ、一人で電車に乗車した。
4 原告は、天王寺駅で降車し、降車した右手方向(東方面、昭和町方面)に、点字ブロックのホーム内側に沿って、白杖で点字ブロックを確認しながら歩き始めた。
 原告がこのとき実際に降車した位置は、A階段の東側付近(別紙図面中①)であり、ホーム東端方向(昭和町方面)に向かって歩いていたのだが、目の見えない原告は、自分はホームのB階段とD階段間のD階段寄りに降車したものと錯覚し、B階段に向かうつもりで、歩いていたのである。
 原告は、数メートル、点字ブロックに沿って歩いていたが、別紙図面中②の地点で突然、点字ブロックが確認できなくなった。本件駅の点字ブロックは、ホームの東端(昭和町方面)から約五メートルの所でホーム内側に直角に折れ曲がっており(別紙図面中オレンジ色部分)、ホーム端までは敷設されていなかった。原告は、点字ブロックが前記のように屈曲して敷設されいることに気づかないまま、ホーム端に向かって進行してしまった。
 原告は、突然点字ブロックが確認できなくなったことから動揺し、点字ブロックを白杖でさがすべく、進行方向にそのまま歩いて行ったところ、原告はホーム東端(昭和町方面)の壁に突き当たった(別紙図面中③)。原告は白杖が壁に当たったが、それがホーム東端の壁とは判らず、原告としては、A階段の裏側にでも当たったと考え、これをよけて線路側に少し体をずらして、進行方向に進もうとした。
5 原告が、右方向(線路側)に少し体をずらして進もうとした途端、原告の白杖に既に発車していた電車が当たった。発車していた電車に接触した勢いで、白杖が飛ばされ、バランスを崩した原告の右腕が電車に接触したため、原告は線路脇に転落し、東端から約一六メートル程先まで(別紙図面中ウ)電車に引き摺られた。
6 原告に接触した電車の車掌は、列車に接触しそうになっている原告に気付き、非常ブレーキを作動させて電車を急停車させたようであるが、結局、間に合わず、本件事故が発生したのである。

第四 多発する視覚障害者の転落事故例
 一 点字ブロック普及以降にも多発する転落事故
 昭和四八年二月一日に発生した国電高田馬場駅における視覚障害者(全盲)のホーム転落事故を契機として、視覚障害者にとってのホームの危険性が強く認識されるようになり、各駅に点字ブロックが敷設されホームからの転落事故の防止対策は、一定程度前進した。しかし、点字ブロックの敷設方法が不充分である等の原因により、点字ブロックが敷設されたからといって必ずしも視覚障害者にとっての安全が確保されたとはいえず、視覚障害者のホームからの転落事故は後を絶たないのが実情である。
 昭和四九年に発表された田中徹二氏(当時、東京都心身障害者福祉センター職員)に調査によれば、調査対象となった盲人単独歩行者一二九名のうち約四〇%がホーム転落事故を経験している。また昭和五七年に発表された村上琢磨氏(現東京都心身障害者福祉センター歩行訓練士)の調査によれば、調査対象となった単独歩行者五九名のうち二四%が点字ブロックの敷設されたホームから転落もしくは転落しそうになった経験を有している。さらに田中雅視氏(国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所)らの平成四年の調査でも、調査対象となった視覚障害者一〇九名のうち二三パーセントがホームからの転落を経験しているとの結果が報告されている(田中雅視外「視覚障害者による鉄道単独利用の困難な実態」リハビリテーション第二一巻四号)。
 このように、点字ブロックが敷設されてもなお、転落事故が多発しているという事実は、単に点字ブロックをホームに敷設しているだけでは、視覚障害者の転落事故防止対策としては、到底十分であるとはいえないことを示している。

 二 本件事故の類似事例
 本件と同様の原因により発生したと考えられる転落事故は、原告が確認しているだけで、三件あり、その概要は以下のとおりである。
  1 近鉄中川原駅事件
平成六年一二月二五日、近鉄湯の山線・中川原駅下りホームで、全盲の女性が、ホームから転落し、走り出した電車に巻き込まれて死亡した。
 同駅では、ホーム縁端部に敷設された点字ブロックが途中で途切れて方向を変えて敷設され、点字ブロックがない部分には、転落防止柵も設置されていなかったため、右女性は、そのまま直進して線路側へ転落したものとみられている。
もし、点字ブロックがホーム縁端に沿って途切れることなく敷設され、もしくは転落防止
柵が設置されていれば、この事故は防げたと考えられる。
  2 JR篠原駅事件
 平成八年二月一〇日、JR東海道線・篠原駅上り線ホームで、視覚障害者の男性がホームから転落し、通過中の電車にはねられて死亡した。
 同駅では、ホーム縁端部に敷設された点字ブロックが、途中で右方(線路と反対側)に直)角に曲がり、階段方向に向かう誘導点字ブロックとなっていたが、右男性は、これに気付かずそのまま直進し、線路側に転落したものとみられている。
 もし、点字ブロックがホーム縁端に沿って敷設されておれば、この転落事故は防げたものと考えられる。
  3 大阪市営地下鉄谷町線天王寺駅事件
平成七年六月二四日、大阪市営地下鉄谷町線天王寺駅下り線ホームで、耳と目の不自由な男性がホームから転落し、進入してきた電車にはねられて死亡した。
 ホームの終端近くになると、点字ブロックは右方(線路と反対側)に直角に曲がっていた
が、右男性は、これに気付かずそのまま直進し、線路側に転落したものとみられている。
また、縁端部の点字ブロックが途切れた先は、ホーム終端であったが、線路に沿った転落防止柵は設置されていなかった。
 この事故は、点字ブロックがホーム縁端に沿って敷設されていれば、十分防げたものと考えられる。
なお、右事故後、同駅では、縁端部の点字ブロックがホームの終端まで延長され、終端部付近には転落防止柵の設置がなされた。

第五 本件における被告の責任
 一 緒 論
1 憲法一三条が定める個人の尊厳及び同法二五条の定める生存権の保障が、健常者にも障害者にも等しく及ぶことはいうまでもない。
 そして、障害者基本法一条は、障害者に自立した社会生活を送る権利が保障されていることを具体化し、「 本法の目的は、障害者の自立と社会、経済、文化その他あらゆる分野への参加を促進することを目的とする」 と定めている。
 そして、障害者の自立を実質的に確保するためには、障害者が経済活動や社会活動に参加できることが必要であり、これは障害者に移動の自由が実質的に保障されることを要請するものである。現代社会においては、この障害者の移動の自由が実質的に保障されるためには、移動手段の中核である公共の交通機関が安全に利用できることが不可欠の前提となる。
 なぜなら、障害者が、安全に公共交通機関を利用できないとすれば、障害者の自由に自分の行きたい所へ行く自由、すなわち障害者にとっての移動の自由が無いに等しく、結局、障害者が社会的に自立することは、不可能となってしまうからである。
2 そもそも、障害者らの自助努力のみによって自己の安全かつ十分な社会生活を確保することは不可能若しくは著しく困難なのであるから、国、地方公共団体及び交通事業者が積極的に安全確保のための措置を講ずることは不可欠の社会的要請である。前記障害者基本法もまさにそのような観点から、積極的施策を行う義務を国、地方自治体及び交通事業者に課しているのである(障害者基本法四条、同法二二条の二)。
 被告は、大規模な地方公共団体として、右障害者基本法の直接の名宛人となっているのみならず(同法四条、同法二二条の二第一項)、地下鉄という公共の交通機関の運営主体として、障害者らの安全確保のためにより積極的な施策を行うべき義務を有しているといわねばならない(同法二二条の二第一項ないし三項)。
3 ところが、現実には、公共交通機関である鉄道の駅のホームにおいて、前記のとおり視覚障害者の転落事故が続発している。このような事態は、視覚障害者にとって、駅のホームは移動の自由を確保する場所ではなく、まかり間違えば自己の生命をも奪われかねない危険な場所と化していることを意味している。そしてこのことは、視覚障害者が安全に社会生活を送ることが極めて困難であることを意味するのみならず、視覚障害者の社会的・経済的自立を阻害し、ひいては生存権すら奪いかねない状況であることを意味しているのである。
 二 本件事故当時の本件ホームの安全設備の状態
1 本件事故当時、本件ホームの縁端部には、前記のとおり点字ブロックが設けられていたが、設置された点字ブロックはホーム東端部分から約五メートルのところ(別紙図面中オレンジ色部分参照)で、線路と反対側に向かって直角に曲がっており、そこがホームの終端付近であることを示していた。しかし、視覚障害者は自分の足もしくは白杖で点字ブロック上の小さな隆起を確認しながら歩行するのであるが、時には点字ブロックをまたぎ越してしまう等して屈曲した部分に気付かず(したがって、ホームの終端付近であることに気付かないまま)、進んでしまい、そこで点字ブロックを見失い、自分の位置を確認することができない状態に陥ってしまう場合がある。
 本件はまさに、原告が点字ブロックの屈曲を確認することができず、点字ブロックが敷設されていないホーム部分に入り込んでしまったため、原告が自分の位置を確認すべく点字ブロックを探しながら移動しているうちに、発進した電車に白杖や原告自身の体が接触して跳ね飛ばされ、そのまま前方に転落して起こった事故である。
 また、本件事故当時、本件事故が発生した本件ホーム東終端部分には、右のように視覚障害者に危険を告知し、もしくは位置を告知すべき点字ブロックが存在していないうえ、転落防止のための防護柵すら設置されていなかった。
 本件現場のホーム東終端には「立ち入り禁止」 と記した標識がある。しかし、この標識が視覚障害者にとって何の意味も持たないことは明らかである。晴眼者であれば右標識やホームの状況を視認することができるので、そのような場所に立ち入ることは通常考えられないとしても、視覚障害者にはこれを確認する術がないのである。視覚障害者としては、自分の足等の身体の一部と白杖により自己の位置、場所の安全性・危険性を確知するしかないのであり、点字ブロックが途切れ、防護柵もなかった本件事故が発生したホーム部分では、原告をはじめとする視覚障害者にとって、自分のいる場所が全くわからなくなってしまうのである。
2 さらに本件事故当時、本件ホームには駅員がおらず、点字ブロックの屈曲に気付かずそのまま直進しようとしていた原告に気づいた駅員は一人もいなかった。すなわち、本件駅は利用客の安全に配慮する人的配置が全く行われていなかったのである。特に天王寺駅のように多数の乗客が乗降する駅のホームにあっては、常時複数の駅員を配置して乗客の安全に万全の配慮をするのが、乗客を安全に目的地まで輸送するという使命を有する公共の交通機関に課せられた義務である。つまり、適切な人員の配置は、物的安全設備が不十分な場合における不完全性を補う役割を果たすのである。本件事故当時の現場の駅員配置は、右の法的義務に違反したものである。
3 このようなホームの構造及び事故防止対策は、視覚障害者の立場に立った安全措置としては極めて不充分であり、視覚障害者が鉄道を利用して移動することが常に転落事故と隣り合わせの危険をはらんでいることを意味し、恐怖の対象となっているのである。このため、多くの視覚障害者や障害者団体は、視覚障害者の立場に立った事故防止・安全対策の充実を強く訴えているのである。
三 被告の責任
1 本件駅は盲学校の通学経路ともなっており、利用者の中には視覚障害者が比較的多く、しかも、前記のとおり、本件事故が発生する前から既に同種事故(特に本件事故の四ヶ月前に地下鉄谷町線で発生した事故)が発生していた。
 したがって被告としては、本件駅においても視覚障害者の転落事故等の同種事故が発生する危険性と事故防止のための物的・人的安全設備の必要性と緊急性を十分認識していたか、もしくは容易に認識し得たはずである。
2 他方、本件事故を回避するための積極的措置としては、既に述べたような防護柵の設置や、点字ブロックのホームの終端までの延長、駅員の複数配置などが考えられるが、これらの措置
をとることは被告にとっては極めて容易であり、いずれも広く普及している安全設備であって、特に技術上の困難を伴うといった事情もない。したがって、上記のような安全設備を設けることは、視覚障害者らの生命、身体の安全という観点からもはや一刻の猶予も許されない緊急の要請だったのであり、この点からも、本件事故現場の安全設備が不完全であったことは明らかである。
3 然るに、被告は、本件駅において事故防止のために必要不可欠な措置を講ぜず、視覚障害者にとって極めて危険な状態のまま漫然と放置してきた。それゆえ、本件ホームは、通常有すべき安全性を欠いており、被告による営造物の設置、管理に瑕疵があったといえる。
4 また、本件事故当時、被告と原告との間には旅客運送契約が成立しており、運送人である被告としては、原告の安全性を確保するための、物的設備及び職員配置について万全の措置を講ずるべき旅客運送契約上の義務(旅客を安全に運送すべき注意義務)を負うものである。ところが、被告は漫然と本件駅の危険状態を放置し、また物的安全設備の瑕疵を補う職員配置も行なわなかったものであり、明らかに右は旅客運送契約上の安全配慮義務の不履行といえる。
 四 小 括
 以上により、被告は原告に対し、国賠法一条及び二条ないし商法五九〇条の責任を負うというべきである。

第六 損害
 一 入院雑費               四五三、七〇〇円
 入院期間は、平成七年一〇月二一日から平成八年五月三一日までの二二三日間と、平成九年二月一〇日から同年六月一五日までの一二六日間の合計三四九日である。
 また一日当たりの入院雑費は一三〇〇円が相当である。
一三〇〇円×三四九日=四五三、七〇〇円
 二 入通院慰謝料           八、〇〇〇、〇〇〇円
治療に当たった期間は、事故日である平成七年一〇月二一日から平成一〇年四月七日までである。そのうち入院期間は約一二ヶ月である。加害者と被害者の間に互換性がある交通事故の場合には、入院期間一二ヶ月、通院期間一七ヶ月の場合、入通院慰謝料として約四〇〇万程度が基準とされているが、本件事故においては加害者と被害者の互換性はなく、交通事故における基準よりも高額となるべきであり、入通院慰謝料は、八〇〇万円が相当である。
 三 後遺症慰謝料          八、〇〇〇、〇〇〇円
 原告は、本件事故により「左上腕骨及び大腿骨骨折、頭部挫創」等の障害を負い、その結果、「橈骨神経麻痺」、「左股関節の可動域制限」、「左下肢の短縮」、「左大腿の筋萎縮」、「左下肢筋力低下」、「上腕、大腿及び頭頂部の手術醜状痕」の後遺障害を遺すに至った。 そして、原告は「左股関節の可動域制限」と左膝関節の可動域低下のために、正座したり、あぐらをかくことが不可能となったものであり、これは後遺障害別等級表第一〇級一一号「一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの」に該当する。

 また「左下肢の短縮(SMD計測で右八三センチ、左八一センチ)、左大腿の筋萎縮、左下肢筋力低下」は、第一三級九号に、「上腕、大腿及び頭頂部の手術醜状痕」は一四級四号及び五号に該当する。
 さらに原告は、視力障害一級であるため読み書きは点字を中心としているところ、このため左指先の感覚は点字判読にとって極めて重要な役割を果たしており、「橈骨神経麻痺」は、原告にとって日常生活の重大な支障となっている。
 以上の後遺障害を併合すると原告の後遺障害は九級に相当するものである。
 したがって、原告の後遺傷害慰謝料としては金八〇〇万円が相当である。
 四 逸失利益          二七、五三〇、五五〇円
  1 卒業遅延による逸失利益
 原告は事故当時、神戸市外国語大学の学生であったが、本件事故により二年間留年を余儀なくされ、このため卒業が遅れ、就職の機会を逸した。当該二年間については、初任給相当額が逸失利益となる。
 すなわち、平成八年賃金センサス・男子学歴計の平均賃金(二〇歳から二四歳)の二年分が損害となる。
 三、二六一、九○〇円×二=六、五二三、八〇〇円
  2 後遺障害による将来の逸失利益
 また、後遺障害が残ることによる労働能力喪失によって生じる逸失利益は、賃金センサス平成八年男子労働者学歴計(二〇~二四歳)の平均賃金を基礎として、原告の就労可能年数、労働能力喪失率(後遺傷害等級九級に対応する労働能力喪失率は〇・三五)及び中間利息控除係数によって計算されるべきである。
 すなわち、原告は平成一一年四月、神戸市外国語大学大学院に入学しているため、平成一三年三月(年齢二七歳)に同大学院を卒業し、同年四月に就職することとなる。したがって、中間利息控除の係数(新ホフマン係数を採用)は、本件事故発生年の年齢二一歳から就労終期年齢六七歳までの四六年に対応する新ホフマン係数(二三・五三三七)から、就労の始期
である二七歳までの六年間に対応する新ホフマン係数(五・一三三六)を控除した一八・四〇〇一である。よって、計算式は、
 三、二六一、九〇〇円×一八・四〇〇一×〇・三五=二一、〇〇六、七五〇円
である。
 五 弁護士費用              四、四○○、○○○円
   原告は本件訴訟を提起し、かつ遂行するにあたっては、弁護士に委任しなければな
  らなかったものである。弁護士費用としては、一ないし四の損害額合計四三、九八四、二五〇円の一〇%に相当する金四四〇万円が相当である。したがって、右弁護士費用の額は本件事故と相当因果関係のある損害である。
 六 損害額合計
  合計 金四八、三八四、二五〇円
第七 結語
 よって原告は被告に対し、国家賠償法一条及び二条ないしは旅客運送契約より生じる安全配慮義務の債務不履行を原因とする損害賠償請求権にもとづき、金四、八三八万四二五〇円及びこれに対する本件事故発生日である平成七年一〇月二一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を付して支払うよう求めるものである。
                          
添  付  書  類
 
一  訴訟委任状

  平成一一年四月八日

                 右原告訴訟代理人

弁 護 士    竹  下  義  樹

同      岸  本  達  司

同      下  川  和  男

同      坂  本      団

同      山 之 内    桂

同      高  木  吉  朗

同      神  谷  誠  人

大 阪 地 方 裁 判 所  御  中