【イベント】2023年11月26日 学習会「ちょっとまって!ナビ歩き~アプリがあふれる時代の自由で安全な歩行とは~」

2023年11月26日(日)「エル・おおさか」(大阪市中央区)にて、ブルックの会2023年度学習会「ちょっと待って!ナビ歩き~アプリがあふれる時代の自由で安全な歩行とは~」を開きました。

対面でのイベント開催は、新型コロナウイルス感染防止のための自粛を経て4年ぶりです。当日は、関西を始め、東京や千葉、愛知などから約70人の方が参加し活発な意見交換が行われました。

まず、佐木理人(当会副代表、全盲)が、イベントの趣旨を説明し、スマートフォンのナビアプリ14種の現状について報告しました。

次に、アプリ利用者の立場から、安田真之(当会運営委員、全盲)が単独歩行・移動の体験談を語りました。初めての場所でのルート確認や、お店探し、そして、周辺施設の確認などにアプリを使うという話が出ました。利用する場合は安全に注意し、自分でも情報を取捨選択し、判断をすることが大切だと伝えました。

続いて、大下歩さん(日本ライトハウス、全盲)から報告していただきました。大下さんは、旅先で出会った高校生に案内をしてもらったエピソードのほか、留学した中米・コスタリカでは、誰もが普通に道を尋ねる習慣があったことなど、ご自身の体験を交えてお話されました。必ずしもアプリを使わなくても、外出先での出会いが楽しめるという魅力について語られました。

お二人の報告を受け、歩行訓練士の立場から原田敦史さん(堺市立健康福祉プラザ、視覚・聴覚障害者センター点字図書館)がお話されました。視覚障害者が歩行支援アプリを利用する上での前提として、基本的な歩行訓練を受け、白杖を使って歩行ができる人、または訓練は受けていなくても、保有視覚を利用して何とか歩くことができている人は、有効にアプリが使えるのではと話されました。
初めてアプリを使う場合は、よく知った家の近所や、信号の識別だけなど、場面を限定することが望ましいと提案されました。どんな道具(アプリ)でも練習が要るため、しばらく使い続け、習熟することが大事であり、改善点が見つかった場合は、アプリの開発者に意見を伝えることも大切だとお話されました。一人で歩く際、周囲の環境に注意するのと同じように現地の状況を事前に知る手段として使えること、歩く手段の選択肢が増えることを指摘されました。更に、自分がどんな風に歩きたいのか、移動したいのかを考えることが肝心ともおっしゃっていました。

また、研究者の立場から青木慎太朗(当会副代表、大阪公立大学都市科学・防災研究センター客員研究員、弱視)が、視覚障害者の歩行に関連して、ガイドヘルパーなどの法制度や背景について解説を行いました。

その後、フロアを交えた質疑応答を行いました。

アプリの利用について、各地の点字図書館に相談する方法やスマホを使いたい人、使いたくない人、それぞれにサポート体制が必要であることや、アプリに集中しすぎて疲れた時の対処法など、さまざまな声が上がりました。

スマホを利用している視覚障害者はまだ少ないと言われている一方、ナビアプリに限らず、用途は幅広いことから、利用につながる動機付けや意識づけも大切との指摘がありました。

最後に、当会代表の加藤俊和がまとめを行いました。
アプリの利用を日常生活にどのように織り込んでゆくのかといった課題や、単独歩行においてスマホを使わない人、使うことができない人への配慮が必要であり、誰一人取り残さないことの重要性を強調しました。

ブルックの会では、開発が続く歩行支援アプリについて、今後の動向を注視し、安全で便利な利用に向けた調査を続けていきます。


(趣旨)

私たちブルックの会は、1999年の発足以来、鉄道を中心に、視覚障害者の安全で自由な移動について、数々の学習会、現地調査、これらに基づいた要望や提言を行ってきました。この約20年の間に、視覚障害者の歩行・移動の環境には様々な変化が起きています。

その1つが、近年、移動時にスマートフォンを活用する視覚障害者が増えていることです。視覚障害者の単独歩行を支援するアプリが次々に登場し、目的地までのルートや信号の色、障害物などの情報をスマートフォンの音声読み上げを通じて入手できるようになっています。視覚障害者向けのアプリだけでなく、一般のルート案内アプリのなかにも音声読み上げなどに一部対応したものがあり、これらを活用して単独移動の幅を広げている視覚障害者は少なくないようです。

一方で、アプリを利用することで、視覚障害者の移動環境が改善され、自由で安全に歩けるようになるかは、未知数の段階と言えます。更に、アプリさえあれば、視覚障害者の単独歩行をめぐる問題がなくなると考える傾向が強まることは避けなくてはなりません。少なくとも現時点において、アプリは決して白杖や盲導犬、ガイドヘルパーなどの代わりになるものではありません。アプリには「できること」と「できないこと」があります。また、アプリを活用して歩く場合、アプリなしで歩くときには求められない歩行の技術が必要になることもあります。移動や歩行にアプリを活用するためには、それらを正しく理解しておくことが不可欠です。

そこで今回、アプリの機能や使い方ではなく、アプリを活用して安全・快適に歩くための工夫や可能性、課題について理解を深めるイベントを企画しました。当日は、普段一人歩きをする視覚障害者や、アプリの事情に詳しい歩行訓練士に、それぞれの経験や工夫、感じている課題などを報告していただきます。その上で、参加者の皆さんの声も伺いながら、アプリがあふれる時代の視覚障害者の自由で安全な歩行について考えます。

現在歩行・移動時にアプリを活用している、また、これから活用したいと考えている視覚障害者の方をはじめ、ガイドヘルパーや歩行訓練士など、視覚障害者支援に関わっている方、その他関心のある方、ぜひご参加ください。

催しの詳細

名称:学習会「ちょっとまって!ナビ歩き~アプリがあふれる時代の自由で安全な歩行とは~」
日時:2023年11月26日(日) 13:30~16:30
会場:エル・おおさか(大阪府立労働センター)5階研修室2
〒540-0031 大阪市中央区北浜東3-14
最寄り駅:大阪メトロ・京阪「天満橋駅」
主催:視覚障害者の歩行の自由と安全を考えるブルックの会(ブルックの会)
協力:大阪公立大学大学院工学研究科都市基盤計画研究室、日本歩行訓練士会、NPO法人ゆに
定員:50名(申し込み先着順)
参加費:資料代1,000円(介助者は無料)

<プログラム>

  • 13:00 受付
  • 13:30 開会、趣旨説明
    佐木 理人(サキ・アヤト、ブルックの会副代表)
  • 13:40 視覚障害者の歩行・移動を支援するアプリの現状
    佐木 理人(サキ・アヤト、ブルックの会副代表)
  • 14:00 単独歩行・移動の体験談
    安田 真之(ヤスダ・マサユキ、全盲、ブルックの会運営委員)
    大下 歩(オオシタ・アユミ)氏(全盲)
  • 14:40 休憩
  • 15:00 コメント・話題提供(歩行訓練士の立場から)
    原田 敦史(ハラタ・アツシ) 氏(堺市立健康福祉プラザ 視覚・聴覚障害者センター所長)
  • 15:30 コメント・話題提供(研究者の立場から)
    青木 慎太朗(アオキ・シンタロウ、大阪公立大学都市科学・防災研究センター客員研究員、ブルックの会副代表)
  • 15:40 質疑応答
  • 16:20 総括
    加藤 俊和(カトウ・トシカズ、ブルックの会代表)
  • 16:30 閉会